「AIの時代に、なぜ『水』を選んだのか」

私は、キャリアのほとんどをITの世界で仕事をしてきました。
インターネットが広がり、スマートフォンが生まれ、そして今、AIがものすごいスピードで社会を変えようとしています。
私自身、新しい技術が好きです。
技術によって、今までできなかったことができるようになる。その瞬間を何度も見てきました。
だからAIにも、大きな可能性を感じています。
でも、AIに関わる中で、ずっと頭から離れないことがありました。
AIには、水が必要だ。
ということです。

AIの向こう側にある「水」

私たちがAIに質問すると、ほんの数秒で答えが返ってきます。
画面の中だけを見ていると、そこに自然資源が使われている感覚はほとんどありません。
でも、その向こう側には巨大なデータセンターがあります。
大量のコンピューターが動き、それを冷やすために電力や水が使われています。
そして、そのコンピューターに欠かせない半導体やGPUをつくる過程でも、膨大な水が必要になります。(飲料水メーカーが可愛く見える….)
AIと水の関係を調べていると、ひとつの研究で「ChatGPTとの20回ほどのやり取りに、500ml程度の水が使われている可能性がある」という試算を目にしました。
もちろん、これは場所や設備、気候、計算方法によって大きく変わります。
それでも私には衝撃でした。実際に北米では水が循環できなくなり停止したデータセンターが出ていること。
自分たちが毎日何気なく使っているテクノロジーと、森や地下水が、実は一本の線でつながっている。
私にはそう見えました。

水は「なくならない」。でも、すぐには戻らない

地球上の水は循環しています。
雨が降り、森や土にしみ込み、地下へ入り、川になり、海へ流れ、蒸発して、また雨になる。
だから、水は循環する資源です。
でも、
使った水が、明日また同じ場所に、同じ状態で戻ってくるわけではありません。
特に地下水はそうです。
雨や雪どけ水が地面にしみ込み、土や岩の間をゆっくり通り、冷たい地下水として蓄えられていく。
そこには長い時間がかかります。
人間が水を使うスピードと、自然が水を育てるスピード。
これからAIがさらに大きくなっていく時代、この二つのスピードを考えなければいけないと思うようになりました。

日本には、たくさんの森がある

日本の国土のおよそ7割は森林です。
これは、とても大きな財産だと思っています。
でも、森があれば、それだけで水を育ててくれるわけではありません。
かつて人が植林し、その後、十分に手が入らなくなった森もたくさんあります。
木が密集して光が地面まで届かなくなる。
下草が育たなくなる。
雨が直接地面を叩き、土が硬くなる。
そうすると、降った雨や雪どけ水が地面にしみ込みにくくなります。
本来なら森の土に入り、ゆっくり地下へ向かうはずだった水が、地表を流れていってしまう。
私はここに、ひとつの可能性があると思いました。

まず、水を見ることから始める

amenowaが最初にやろうとしていることは、実はとても地味です。
地下水を観察すること。
雨が降ったら、地下水はどう動くのか。
雪が積もり、春に雪がとけたら、どれくらいの時間をかけて地下へ届くのか。
森の状態を変えたら、水の動きは変わるのか。
まず測る。
そして、知る。
そのうえで森に手を入れ、雨や雪どけ水が地面にしみ込みやすい環境をつくる。
私はこれを難しい言葉で「水の涵養」と呼ぶより、
「水を育てる」
と呼びたいと思っています。

技術を止めたいわけじゃない

私がamenowaを始めたのは、AIやデータセンターに反対したいからではありません。
むしろ逆です。
私はテクノロジーの未来を信じています。
AIはこれから、人間の生活を大きく変えていくと思っています。
だからこそ、そのテクノロジーの未来を支える水や森についても、同じくらい真剣に考えたい。
テクノロジーを使う。
エネルギーを使う。
水を使う。
だったら、使うだけではなく、育てる側にも回れないだろうか。
それがamenowaの出発点です。

果てしなく大きなプロジェクト

考えていることは、果てしなく大きいです。
正直、私たちだけでできることではありません。
森には森の専門家がいる。
地下水には地下水の専門家がいる。
地域で暮らしてきた人たちにしか分からないこともある。
行政、大学、企業、地域の人たち。
いろいろな人が関わって、初めてできることだと思っています。
だから、最初から大きなことをやろうとは思っていません。
まずは、一つの場所で地下水を見る。
雨を見る。
雪を見る。
森を見る。
そして少しずつ、水がどう生まれ、どこへ行くのかを知っていく。
そこから、水を育てる。
AIが当たり前になる未来にも、
子どもたちが蛇口をひねれば、当たり前のように冷たい水が出てくる。
川には水が流れ、森には水が蓄えられている。
そんな「当たり前」を次の、そしてその次の世代にも残したい。

水は、使うだけの資源ではなく、私たち自身で育てていくもの。
それを実際にやってみようと思って、3年前にamenowaを始めました。水の循環を見える化して、自然環境を観測するプロジェクトを北海道ルスツリゾートと一緒に始めました。

小さなプロジェクトが、いろんな方々に注目されるようになってきました。
私たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。

ルスツリゾートとの水の取組:https://rusutsu-sustainable.com/?lang=ja